親として、ITエンジニアとして、そして講師として、よりよい情報教育のためにできることを考える

伊藤淳一さん(@jnchito)のブログ記事「【問題提起】篠原嘉一氏に情報教育の講演を依頼する前に考えていただきたいこと ~ITエンジニアから見た、情報教育のあり方について~」を読みました。

僕も3歳と1歳の子供を持つ親として、またITエンジニアとして、さらに講師として、様々な立場として人ごとではない問題だと思いましたので、これについて思ったことをまとめてみようと思います。

内容としては以下の3点です。

  • 煽るだけで終わる講演は無意味である
  • 聴く側はロジックで考えることが大事
  • 怖がらせるだけでは情報教育にならない

ここからは、それぞれについて詳しく考えてみます。

 

「煽るだけで終わる」講演の無意味さ

元の記事を見る限り、この講演の一番の問題は、煽るだけ煽って「じゃあどうすれば良いのか」の議論がほとんどないことではないかと思います。

LINEは怖い、だから使わない、では、LINEが提供してくれる価値も一緒に放棄することになります。

みんながAIに頼るようになると日本が終わる、だから使わない、では、AIの研究によって将来生活がさらに豊かになる可能性も否定することになるでしょう。

例えば包丁は危ないことを理解した上で人は料理します。車だって危ないからこそみんなが教習所で免許をとって運転しています。

このような「一見あぶなっかしいもの」を利用するために大事なのは、「なぜ」危ないのかを明らかにして、「どう」行動すればその危うさを回避しつつメリットを享受できるのかを考えることだと思います。

その上で、講師の方には第一人者としての知見や経験を基にした自身の考えを話していただき、さらにそれを聴いた人たちが「自分の場合はどうか」を考えて判断できるだけの情報や考え方を提供してほしいと思います。

インターネットは怖いものだと煽るだけ煽って質問も受け付けずに終わりでは、その講演を聴いた人たちは、インターネットをどう使えば危険を避けつつ便利に使えるかが全く分からないままです。

実際、元の記事の最後で紹介されている感想は全て「怖いと思った」で終わっていて、少なくともその人たちの中には「じゃあどうするか」についてのアイデアはありません。「怖い」と思いながら今まで通りの使い方をするのか、全く使わないか、という極端な選択肢しかないのではないか、と考えてしまいます。

 

「ロジックで考える」ことを身につける

この講義では、例として「Googleマップの移動履歴で、自分の位置情報がバレ」て「ストーカー被害などが発生する」から「使わない方が良い」という話がされたようです。

しかし、「位置情報がバレてストーカー被害にあうから使わない」ではちょっといろいろと発想が飛躍しすぎています。

まず位置情報がバレることについて、伊藤淳一さんも

(いったい誰に?)

と書いている通り、ストーカーにバレるのか、Google社員にバレるのかによって問題は大きく異なります。

さらに、仮にストーカーにもバレるようなサービス設計だったとして、ストーカーはどうやって目的の人の位置情報「だけ」を見分けられるのでしょうか。

Googleマップを使っている人は日本だけでも何万人といます。そしてどう頑張ってバレたとしても、それが個人情報と紐づく形でストーカーに(つまり誰でも取得できる形で)バレているとはとても考えられません。もしそうだとしたらとっくに大問題になっているはずです。

もしかしてそういう「シェア」を前提にした機能なのかと思って調べて見ましたが、やはり機能自体、「オプトインによって有効になる」機能であり、説明文にも

Only you can see your timeline.

とはっきり記載があります。

スクリーンショット 2018-06-04 13.09.24
Timelineの初回表示画面

Googleがそう書いている以上、そう簡単に誰でも誰のデータでも取得できるような環境ではない、と思っておいて問題ないでしょう。

というワケで、ストーカーが目当ての人のデータを手に入れるには、

  • ストーカーしたい人のアカウントを特定し
  • そのアカウントを乗っ取り
  • その人が運良くTimelineを使っている

といういくつもの難関を突破する必要があります。現実問題としてそれが達成される可能性って、Googleマップとは関係なく発生するストーカー被害と比べてどの程度危険なのでしょうか?そしてそれを実行しようとしているストーカーがどのくらいいるのでしょうか?

それとももしこのような表面上の情報では推測できない穴があるというのであれば、それこそぜひ講演の中で力を入れて教えてほしいところです。

少なくとも、そのあたりに言及せずに、Googleマップの移動履歴は「自分の位置情報がバレ」て「ストーカー被害などが発生する」から「使わない方が良い」と言うのはどれひとつのロジックをとっても無理があるのではないかと思います。

このような飛躍した発想を素直に頭に入れてしまわないよう、聴く側としては「ロジックで考える」ことを習慣づけて、議論の進み方に矛盾や無理がないかをその場で考え、「おやっ?」と思ったらその疑問を出発点に自分で調べられる力が大事なのだと考えました。

 

「怖がらせる」だけの情報教育が問題な理由

記事に対するTwitter等の反応を見ていると、「怖がらせて注意させるのが目的だからこれはこれで良いのではないか」という意見があるようでしたが、そうだとしてもこれは問題だと思います。

この講演の一番の目的は、1人ひとりがより安全にインターネットを利用できるようになることにあると思います。それを達成するための講演の仕掛けの一つとして「怖がらせる」があるのであれば特に問題はありません。

しかし、それ「だけ」で講演を終えてしまうと、「じゃあ僕は・私はこれからどうすれば良いの?」を1人ひとりが考えることができません。

結局できることと言えばLINE、荒野行動、Googleマップなど、ここで紹介されたサービスを避けるか、インターネット自体をやめるか、怖がりながら今まで通りインターネットを使うか、くらいではないでしょうか。

「そこから先は自分で調べれば良い」という意見もありますが、「そこから先」をインターネットで自分で調べたときにヒットするのは、PV稼ぎを目的とした断片的な情報のまとめサイトから本当に信頼できる情報まで様々です。

それら玉石混交の検索結果から信頼できる情報だけを抜き出せるだけのリテラシーが、「LINEは個人情報を抜き取るから怖い」を言葉通りに受け取ってしまう人たちにあるでしょうか?というかその「信頼できる情報だけを抜き出せる」リテラシーを身につけること自体がこのような講演の役割ではないでしょうか?

今回は伊藤淳一さんが問題提起をしてくれたおかげで僕を含め色々な方が考えるきっかけを得ることができましたが、そうでない講演では聴いた子供や保護者が「インターネットは怖い」という印象だけを持ち帰ってしまった可能性を考えると、インターネットやスマートフォン、AIといった、今社会を便利にしているサービスの成長を無駄に阻害するだけの結果になってしまったのではないかと思います。

まとめ

不安を煽って終わるような講演は、全く実用的でない判断基準を聴く側に与えてしまうという点で、誰も聞かないようなつまらない内容の講演よりもマイナス面が大きいと思います。

この記事を読んで、ひとりのITエンジニアとして、ブログなどを通して非エンジニアにはイメージしづらいIT関連のアレコレをより分かりやすく説明できる力を磨いていこうと思いました。

またひとりの親として、ロジックで考え、おかしな点は自分で調べ、調べた中におかしな点があればさらに調べ、その積み重ねから自分の考えを作っていくことの大切さを子供に伝えていきたいと思います。

さらにひとりの講師として、極論で不必要に生徒の考えを振り回すのではなく、事実や知見・経験に基づいた情報を生徒に提供した上で最後は生徒1人ひとりが考えることが重要であることが伝わるような講義をしていきたいと思います。

「この内容はダメだ!」「この人はもう講演しないべき!」という声を上げることは簡単ですが、じゃあ誰がどうやって「ちゃんとした」講演を提供するのか、どう評価するのか、といった次の問題が出てきてすぐに解決しないことは想像に難くないと思いますので、その前にまずは自分にできることを、ということで思ったことをまとめてみました。

今回問題提起をしてくださった伊藤淳一さん、ありがとうございます。

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